戦争と平和を考えるためのお勧め作品
・「ナチスと大富豪 裁かれなかった罪」 著者ダーフィット・デ・ヨング 河出書房新社 386ページ
訳者(来住道子)があとがき冒頭で、でいみじくも「実に衝撃的」と書いている。4年間に渡ってベルリンで取材、調査、執筆を重ねたという本書は、正にこの批評が相応しい。本書はナチスと協力関係を保持し、大富豪となっていく5つの実業家の一族を取り上げており、「これほど根深い闇の歴史(著者)」が明らかににされていて、世界的な反響を呼び、既に20か国で翻訳されているようだ。「資本主義とナチズムが人知れず手を組んだことで、いかにして民主主義が失われ、命がどれほど失われたかについて克明に綴った必読書。不条理を正す世論が動くきっかけとなれば幸いである」と訳者の熱い想いも伝わってくる力作。(2025年10月20日)
・「イスラエル人」の世界観 大治朋子著 毎日新聞出版 315p
特派員として6年半、イスラエル、パレスチナに滞在した著者は、この紛争には普遍性があるとの認識を深め、その後も、研究、インタビュー等取材を続け、紛争の本質を掘り下げ纏め上げた力作。ハマスが奇襲作戦で得たもの、イスラエルの執拗で非情なガザ攻撃の背景等と共に、ユダヤの歴史、宗教も概観し、読者の視野を広げる。この紛争を終結し、平和に辿り着ける可能性は有るのか?「中東平和という気が遠くなるほど巨大な課題に、私たちはどう向き合えば良いのか?」と著者は疑問を投げかける。その望みは、第6章「草の根の取り組み」に書かれている。結局、平和をもたらす鍵は、ここにある。いや、これしかないだろうと思わせられる調査報道で数々の賞を受賞した著者ならではの一作です。(2025年10月11日)
・「民主主義の死に方 How Democracies Die」 スティーブ・レビィキー、ダニエル・ジブラット 著 新潮社
全米ベストセラーの本書は、表紙に掲載されている文言が端的にこの本の趣旨を示している。「二極化する政治が招く独裁への道 司法を抱き込み、メディアを黙らせ、憲法を変え、「合法的な独裁化」が世界中で静かに進む。「私たちは、民主主義がその内側から死ぬことを防がなくてはいけない」。世界各国で起きた歴史的事実を踏まえた分析の結果たどり着くこの結語が、実感を持って迫る。「相互的寛容と組織的自制心」の規範が、民主主義を実質的に支えるとの指摘も忘れてはならない言葉だ。
・アウシュヴィッツ脱出:命を賭けて世界に真実を伝えた男」ジョナサン・フリードランド著 NHK出版 432ページ。ノンフィクション。
ナチスの強制収容所の非道さについては、「夜と霧」で読んでいるかもしれませんが、これは、そればかりでない「胸の痛くなるような描写が続く」(訳者あとがき)読者にぐいぐいと迫る記録。アウシュヴィッツを脱出したルドルフ・アルバの人生を描いたノンフィクション。。ユダヤ人絶滅計画を機械的に合理的に実施するナチス、その事実を知りながら、動かなかった世界の存在していたことは、今でも、形を変えて繰り返されているのではないか? 色々と考えさせられる一作。(2025年8月4日)
・アメリカに渡った漫画 「はだしのゲン」
これは、7月26日、NHKの新プロジェクトX で放映された。一人の日本人の若者とアメリカ人の出会いから、広島で投下された原爆をテーマとした「はだしのゲン」を英訳するプロジェクトが立ち上がった。全10巻の完訳、出版が実現し、世界各国で読まれるようになるまでの紆余曲折は、国籍を超えて共感を得るものが確かにあることを示し、胸に染みるものがある。原作者中沢啓治の墓碑銘「人類にとって最高の宝は平和」も心に残る。(2025年8月6日)
・件名: ヒトラーに抵抗した人々 反ナチ市民の勇気とはなにか
對馬達雄著 中古新書2349。284ページ。筆者のあとがきに「筆者自身、反ナチ市民として彼、彼女たちが、臆することなく、人間性を失わず信念をもって生きた姿に再三粛然たる思いをいだいて書き進めた」と記している。読者も正に粛然たる思いで読み進めることになるでしょう。
本書を読むと「世界議会」設立運動は、その実現への道のりは遠いが、その実現に向け、少しづづでも行動していく市民の存在に希望を見いだすことが出来るようにも思える。
・国際立憲主義の時代 最上敏樹著 2007年11月 岩波書店出版
国際社会においても法の支配、立憲主義を確立することがカント以来の課題。いかにすべきか。歴史的に・思想的に国際機構はいかなる意味を持ち、また日本国憲法の平和主義はどう関わることができるのか。リアルな現実認識をもちつつ理想を追求する著者の主要論考集。

