世界議会 21世紀の統治と民主主義(出版社 明石書店)」を読み解く

本書は世界議会の思想的淵源から直面する地球規模の問題、その解決への具体策まで、密度濃く、掘り下げている。ここでは、取り上げられている世界的問題に焦点をあて、その一部を紹介する。ともすれば国内的な問題に関心が払われ、危機に面している人類社会への問題意識に欠け内向きと言われる最近の日本人、特に若い人にグローバルな問題意識を持ってもらいたいと思っている。

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19.貧困の根絶

貧困の根絶は人道的、公正、平和で、安全な世界の基本である。「貧困は人々を自暴自棄の行動に駆り立てる絶望へと追い込む」とユヌスは書いている。「貧困層の権利を守る国際委員会」は、世界で40億人が法の支配から遮断されているために、彼らの生活を向上させ、貧困から抜け出す機会が奪われていると2008年の報告書の中で述べている。貧困問題の解決には貧しい人々が発言する必要がある。その機会を与える最善の方法は世界議会によるものであろう。(詳細21章)

 

18.グローバルな問題としての水の安全保障

2018年に国連と世界銀行グループが発表した報告書によると、7億人が2030年までに厳しい水不足のため移住を迫られる危機に直面し、20億人以上が不衛生な水を飲まざるを得ず、45億人以上が安全に管理された衛生サービスを受けられない。2050年までには、世界人口の半分以上が、「水問題を起因とする危機に晒されるであろう」。インドの戦略地政学者は、「21世紀は人類が深刻な水の問題を如何に管理し、対処するかに関して決定的な時代となろう」と書いている。世界議会は世界法に基づく水問題の管理の出発点になるはずである。(詳細20章)

 

17.グローバルな食糧備蓄

これは、投機的な市場への参入を図る者との戦いに加えて、収穫不良と人道危機に対する対策として重要である。グローバルな備蓄食糧の管理は 世界統合に向けた可能な最初のステップであると英国の経済学者ジョン・マックリントックが述べている。(詳細19章)

16. グローバルな公共財としての食糧の安全保障

食糧の国際貿易は1960年以来5倍になり、2000年から2010年の間だけで倍増した。グローバルな相互依存と相互連携は食糧分野において際立っている。人類と世界文明にとって食糧安全保障の確保は、最も優先度の高いグルーバルな公共財の一つとみなされるべきである。世界議会はこのために有効な役割を果たすであろう。(詳細19章)

15.グローバルな食糧供給のもろさ

世界の文明の礎である農業システムは、特に気候変動と環境破壊の影響により脅かされているとポール・エリックが論じている。また、環境専門家のレスター・ブラウンは、「もし我々がこれまでのような生活態度を続けるならば、グローバルな崩壊は有り得るばかりでなく必ず起こりそうだ」と論じている。(詳細19章)

14.国際刑事裁判所(ICC)の管轄権の拡大と超国家的警察軍

ICCは2002年にその業務を開始したが、グローバルに影響を及ぼす犯罪にその管轄権を拡大する必要に迫られている。対象となる犯罪には、テロリズム、麻薬犯罪、金融システム全体に影響を与える経済金融犯罪、環境破壊、グローバルな規模のサイバー犯罪が含まれる。ICCの裁判手続きは逮捕を実行せずにはできない。超国家的警察軍が必要である。(詳細18章)

13.国際的テロリズムへの対応

2001年9月11日、米国における国際的テロリズムの行動は世界を変えた。今後、「核テロリズム」の行動も懸念される。国境を超える犯罪活動は、本質的に国際的であるので、解決策もまた国際的でなければならない。トマス・ダルンシュテットが、地球上の全領域を包含する世界内部の安全保障秩序を管轄する世界警察法による保護の必要を論じている。 (詳細18章)

12.世界議会の役割

「私たちは誰が国家を代表して行動するかを知っている。しかし、誰が人類を代表して行動するのか?誰が地球を代表して行動するのか?」

と宇宙物理学者のカール・ホーガンが問うている。人類、地球の存続のために行動が求められつつある今、私たちはこの問いに真剣に向き合わなければならない。この欠落を埋めるのは世界議会の役割であろう。

(詳細16章)

11. 世界平和のための四本の柱

核兵器廃絶だけでは問題解決にならない。なぜなら、核兵器を廃絶しても、その時には在来兵器が再び正比例して重要性を増すはずであるからである。世界的恒久平和のためには4つの柱が必要である。1.世界規模の武器管理、2.紛争の公正な調停を可能とし拘束力を持つ法律を制定できるグローバルな機関、3.紛争の平和的解決のための国際裁判所への服従義務、4.警察、軍事的手段による超国家的な権限の執行である。(詳細16章)

10.万物の破滅をもたらす核戦争

膨大な核兵器の蓄積は世界文明を消滅する可能性を生み出した。米国とロシアで、18000発以上の核兵器があり、更に、フランス、中国、英国、インド、パキスタン、とイスラエルが合計1000発を保有している。北朝鮮も核兵器保有国となることをを目指している。核戦争の明らかな脅威が核戦争を抑止すると信じるのは大きな間違いである。偶発的な戦争の可能性も高まっている。命令系統に偽の発射命令が送り込まれることさえあり得る。唯一の防御策は核兵器の完全な撤廃である。そのためには国際秩序の世界法的制度への変容が必要である。

(詳細16章)

 21世紀後半のグローバルな中心 人工知能(AI)発展のコントロール

人間の知能よりも数兆倍も優れたAIを作ることが可能との予測がある。スティーブン・ホーキングは、AIの発展は、「人類の最終的な滅亡」をもたらすかもしれないと述べている。いみじくもプーチンは、「AIでのリーダーは世界の支配者になり得る」と発言している。AIが制御不可能になる前に、迅速な対応が必要であろう。それは世界政府を求める動機の一つであろう。(詳細15章)

 

8.生物遺伝学発展のもたらす人類の分断

生物遺伝学の発展は、特定の遺伝子を自由に、伝達、或いは遮断することを可能とする時代をもたらした。その先にあるものは、富める者と貧しき者の間の社会的な溝が遺伝子的に確立され、「遺伝子支配体制」が生じると予想されている。この結果は、深刻な人類の分断をもたらすだろう。生物遺伝学のグローバルなコントロールが必要である。(詳細15章)

1.地球システムの限界

気候変動、生物多様性の喪失、窒素リサイクルは、既に限界を超えているとのレポートがある。もし、この限界を超えた場合、人類は「悲惨な結果に面する可能性がある。(レポートの詳細は、第10章参照)

2.国際法の悲劇

国連総会で全会一致による決定が増えていることを、コフィ・アナン国連事務総長は嘆き、「全会一致は国連総会を一般論に逃げ込むことを促し、行動を起こすための真剣な努力を放棄させている」と書いている。国際法の経験則として、広い範囲に及ぶ条約程それに比例して適用範囲が狭くなる。これを国際法の悲劇と名付けることができる。 敗者は規制の有効性と人類全体なのである。(詳細 第10章)

3.核戦争に陥る危険性

核兵器は戦争の可能性を減少したかもしれないが、複雑で緊密に連結された核装備は偶発的な戦争の可能性を一層高めており、数多くの実例が明らかにされている。それは核戦争の勃発を現実的に実感させ背筋が寒くなる。(詳細 第16章)

4.自律的兵器

軍事用ロボット製造は急速に成長しつつある産業である。完全に自律的に動く殺人ロボットと戦闘用ドローンの開発が勢力的に開発されている。今開発されつつあるロボット技術は、人類に脅威を及ぼす可能性があり、世界法の下での規制が必要である。(詳細 第15章)

5.バイオテロリズム、ナノボットと新ウィルス

「古典的な大量破壊兵器」によってもたらされるよりも、遺伝学、ナノ・テクノロジー、ロボット工学を結合した応用の方がもっと大きな危険をもたらすとの予想がある。また、それほど遠くない将来に、全てのコンピューター・ユーザーが市販の一般的な資材を使って、独自のスーパーウィルスを生み出すことができるようになるとの予想もある。潜在的に非常に危険性のある技術の開発の中止とその知識の探求のグローバルな制限が求められる。しかし、国際法では、対応困難である。(詳細15章参照)

6.「「グローバル公共財としての金融システム

グローバル公共財に関する国際タスクフォース」は、気象変動への取り組み、伝染病の防止、国際貿易システムの強化、平和と安全保障の確保と共に、「国際金融の安定性の強化」最も重要なグローバル公共財の中に含めている。国際金融システムの崩壊がもたらすグローバルな危機を鑑みれば、当然であろう。各項目の達成は、有効な国際協力を必要とする。しかし、各国政府は、その国益が異なるために広範囲にわたる規制に合意することは困難と考えている。グローバルな規制を可能とする世界法の枠組みが必要である。(詳細 12章参照)

7.世界的崩壊の可能性

人類の歴史上初めて世界を網羅する世界文明が存在する。だが、人間の活動は今や地球システムを維持する重要なパラメーターに大きな影響を与えているのみならず、文明の世界的な崩壊の可能性すら生み出していることが裏付けられている。そのような大惨事から予測される結果は非常に大きい。そのようなリスクを低減することが、人類にとって「重要な検討事項」とならねばならない。(詳細 第15章)

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